キャストラウエスタンノワール アンカー財団編 第7話 ケージー・ムトゥー捜査官&ヘージ・サイトー捜査官 駐屯軍内牢獄 牢獄の壁にもたれかかって座っていたクレアが唇を噛み、立ち上がったかと思うと奥の壁に向かってガサガサとベルトを外し、軍服のズボンを下ししゃがみこんだ。 シューーーーーーっ! そしてクレアは牢の中で壁に向かって激しい音を立てて放尿を始めた。 その壁の側には小さな穴があり、それが投獄されたもののトイレであった。 「おっ、今日もいいもの見られるなぁ」 見張りの親衛隊員がクレアの丸く白い尻を見ながら嘲笑していた。 クレアはその嘲笑を無視するように排尿し、それが終わると下着とズボンをあげた。 尿を拭きとる紙も用意されておらず、ズボンをあげると下着にじわっと暖かいものが広がった。 そんなところに二人の男がやってきた。 「すまんが、クレア・L・マスターソンを引き渡してもらおう」 年配の男が静かにそう告げた。 二人ともスリーピースに帽子まで合わせたきちんとした格好をしていた。 明らかに政府のものだった。 「おい、おい、ここは軍部だぞ、どこの所属か知らんが、ちゃんと手続きはとっているんだろうな?」 見張りの男が言ったが、もう一人の若い男がこれに答えた。 「ええ、もちろんです。我々は連邦捜査局の者です。特命を受けて参りました。」 「はぁ?ここはジャック・ロー大佐の管轄だぞ!連邦捜査局ごとき政府の犬の権利でどうこうできるところではないんだよ。軍部と政府の犬ならどっちが上かわかるだろ!!」 小太りな見張りの男が吠えた。 政府機関の年配の男は無造作に内ポケットから令状を出し、老眼を気にするように読み上げ始めた。 「軍部のお偉いさんよ、読み上げようか?えーっと『北方面軍 リバータウン駐屯基地所属 クレア隊隊長 クレア・L・マスターソン大尉をウエスタン合州国大統領 大統領令により連邦捜査局が身柄を拘束し、7日間の取り調べを行う。よって・・・』まだ、読むか?」 そう言って大統領のサインのある大統領令を見せた。 「本物か・・・?」 「疑いますか?私は連邦捜査局 国家保安部所属ヘージー・サイトー(斎藤平次)捜査官であります。そしてこちらが・・・」 「同じく連邦捜査局 国家保安部所属ケージー・ムトゥー(武藤敬次)捜査官だ。この女を国家保安上の理由で当局が逮捕する。」 「あっ、それから僕たちのこと心配だったら、当局に問い合わせて見てください。」 とサイトー捜査官が付け加えた。 「ということでカギを開けてくれ。」 とムトゥー捜査官が言った。 大統領令を持ってこられては、さすがにどうすることもできない。しかし、勝手に釈放するとジャック・ローの叱責を受けるかもしれないというジレンマに見張りたちは陥り、必死の抵抗を示した。 しかし、連邦捜査局が握っている見張りの男・二人の秘密・・・一人は幼児売春、もう一人は軍部資金の横領の事実を突きつけられ、彼らが本物の捜査員と認めざる得なくなった。 またここで抵抗した場合、その秘密は軍司令部に報告され、いかにジャック・ローの力が強くても懲戒解雇は免れないということを悟り、クレアを釈放した。 「さぁ、行きましょうか、大尉。話はゆっくり聞かせてもらいますぜ」 ムトゥーはそう言ってニヤッと笑った。 しかし、クレアには自分が連邦捜査局に逮捕される理由が全く分からなかく戸惑いの表情を見せていた。 アンカー財団 アンカー・アロー邸 グローバルの案内によって、アンカー・アローの邸宅の大広間に涼子となびきは通された。そこには眼光鋭い老人が座っていた。 「アンカー・アロー様。協力者をお連れしました。」 グローバルは二人を紹介し、テーブルにつけた。 「君たちがこの西部で噂の高いガンマン・・・ノワールの涼子とロックオンさやかかね?今回の事が成功すれば報酬は言い値で支払おう。また前金として2割は支払う。」 そう言って、老人は二人の顔を見た。 「ああ、一人頭3000万だ。いいか?」 涼子は吹っ掛けたつもりだったが、アンカー・アローは即座にOKし、執事に600万ずつ用意するように手配をした。 「もちろんだ。そんなはした金、ウエスタン合州国の命運と比べれば何でもない。今回の仕事の前に全容を話しておく。怖くなって逃げてもワシは咎めん。そんなヤツならこの戦いに参加してもらっても意味がないからな・・・」 「おい、おっさん、もったいつけんなよ。早く話せ。」 涼子は話をせかした。アンカー・アローは深刻な面持ちでゆっくりと話し始めた。 「ジャック・ローはな、権力が欲しいだけの単なるバカではない。ただ単純に軍部を私物化しているわけではない。奴はノーザン帝国※のスパイ・・・いや工作員じゃよ。」 「ノーザン帝国?あの北方民族の金髪の野蛮人たちか?」 「そうじゃ。野蛮人かどうかはわからんが、ここ数年、奴らの脅威は増している。しかし、北方面軍司令の徹底抗戦で、戦闘は膠着状態。そこで、奴らはスパイを送り込んで我が国を内部からかく乱しようとしているのだよ。 そこでジャック・ローは名門カラー家の令嬢ブレンダを抱え込み、軍部の圧力をかわし、うまく力をつけよった。軍中央の統制のかかりにくい親衛隊を作ることで、奴の思いのままに帝国の工作員を送り込むのがその真の目的じゃよ・・・ しかしさすがにカラー家のご令嬢がかかわっていると言っても、他国の工作員とわかれば軍部も黙ってはおらん。数年前から軍部の内偵部隊が送り込まれてきた。 我々、財団も他国に国を乗っ取られんように軍部に協力にでたというわけだよ・・・」 そう言ってアンカー・アローは一瞬うなだれたが、急に眼を大きく開いて語気を強めた。 「しかしワシらの抵抗がすこし遅かった。とうとう、奴らはクーデター計画の実施に踏み切ろうとしていることが分かった。大陸歴219年10月10日、あと1か月後に行われることがわかったんじゃ!それを何としても阻止せねばならん。工作員が一気に流れ込む前に、ジャック・ローの首を獲らねばならんのだ!」 「ちょっと待って、そんな大事がわかっているんなら、中央から派兵してもらえばいいじゃないの?」 さやかは怪訝な顔で言った。 ガチャン 大広間の扉が開く音が聞こえた。 「そうだ!その件については、一番近い北方面軍から50名の精鋭部隊を送ってもらう。ノーザン帝国との攻防の中だ、この数が限界だ。」 ムトゥー捜査官がそう言いながら、サイトー捜査官、クレア大尉、そして細身の女性と大広間へ入ってきた。 「駐屯軍約1000人の内、親衛隊は約100人、そのほかジャック・ローに与すると思われるもの約50人。約150人の反乱組織があると思っていい。国境線での攻防が続く中、国家騒乱だけは避けたい。奴らを無抵抗のまま抑え込む、これが私たちの作戦です。」 サイトーがそう続けた。 「しかし、精鋭部隊と言っても50人、さらにジャック・ローは駐屯軍の指揮官だろ?150人ではなく、1000人が相手では?」 さやかがいぶかしげに聞いた。 「そこは手を打ってあります。」 細身の女兵士が割って入ってきた。 「申し遅れました。私はクレア隊所属、ミキ・カトー少尉であります。こちらが私の隊長の・・・」 「クレア・L・マスターソン大尉だ」 「それからこちらが・・・・」 「連邦捜査局でこの事件の指揮権を持っているムトゥー捜査官だ。こっちが相棒のサイトーだ」 それぞれに自己紹介を始めた。 「・・・話がそれましたが、50人を率いるのは北方面軍総司令官ジェネラル・ミッツ(ミッツ将軍)。・・・そう彼女はミッツ・ブリリアントウィズダム(明智光子)大将です。さらにクレア大尉の呼びかけで集まった反ジャック・ロー勢力が68人・・・」 ミキ・カトー少尉の話の途中で、サイトー捜査官が次のように続けた。 「連邦捜査局から34人、そして、アンカー財団が雇った信頼できる傭兵があなたたちを含め43人・・・合計でえーっと・・・」 「合計195人・・・か」 さやかがそういうと、アンカー・アローは 「あともう一人・・・とっておきの剣の達人・・・潜龍寺 蓮美大尉が奴らの内部にいる。」 とゆっくりと話した。 「3日後の9月15日にジェネラル・ミッツが到着したら一気に宮殿を囲み無血でジャック・ロー、ブレンダ・カラーを投降させ逮捕する。おそらく複数の工作員もいるだろうから慎重にな。」 ムトゥー捜査官は皆に向かって気を引き締めるように言った。 そして次の言葉を付け加えた。 「間違えてもブレンダ・カラー少佐は殺さないようにな!軍部だけでなく、中央政府からも強い要請が出ている。いいですな?」 その言葉を聞いて、さやかは奥歯を噛みしめた。 いよいよ決戦が近づいていた。 続く ※ノーザン帝国 ウエスタン合州国の北に位置し、版図を広げつつある絶対君主制の国家。 北方面軍はこの国との国境線の攻防をしている。 |