
百合の泣いた姿は見た事がなかった。
それが一番古い記憶にあることかなぁ…。
逆に姉の彩の方がぎゃんぎゃんよく泣いていたよ。
百合が1歳の時に俺は生まれた。
母が言うにはその時百合はすごく俺に興味を持った目で眺めていたそうだ。
そしてお互い物心付いた時から百合は俺を可愛がるようになったらしい。
百合も初めての弟という事ですごく嬉しかったんだろうな…
スプーンで食べさせてくれたり口のまわりを拭いてくれたり
ミルクなんかもよく飲ませてもらってたな…。
それはもう母親の絵里ママや彩なんかよりも付きっきりで。
いつもにこにこと世話をしてくれたよ。
俺もまあまだ子供だったし、よくやんちゃして彩のほっぺたつねったり
百合の髪なんか引っ張ったりしても泣くのはいつも彩ばかりだった。
百合は絶対に泣かないんだ。
一度も百合の泣いた姿を見た事がなかったので
なんて強いお姉ちゃんなんだろうって思う様になり、彩はなんて泣き虫なんだろうと。
百合に生傷が増えても次の日にはバンソウコウを貼って俺の世話をしてくれた。
ある日彩と百合にタンコブが出来るほどのイタズラをして彩を泣かせたんだ。

その時も百合は笑顔で頭を撫でてくれた。
そしてその夜…
夜、いつも寝ている時間にふと目が覚めてしまって
絵里ママの居る居間の方へと向かったんだ。
彩はもう寝ていて居なかったがそこには絵里ママと百合が居た。
なのに…
泣き声が聞こえた。
そっと、ふすまを開けて覗くと、なんとあの百合が泣いていたんだ。
驚いた俺は少しばかりその光景を眺めていたのを覚えている。
絵里ママ 「痛かったでしょう…よしよし…」
百合 「うえ〜ん! うえ〜ん… でもっ… でもっ…」
百合 「おおつぶちゃんの前で… うえ… 泣かなかったの… うえ〜〜ん…」
絵里ママ 「百合ちゃん強い子なのネ でもちゃんと叱る事も大事なのよ? よしよし…」
百合 「うえ〜ん… うえぇ〜ん…」

絵里ママは昼間俺が付けたタンコブを優しく撫でていた…。
百合は泣かない強い子なんかじゃなかったんだ。
元々泣き虫だったんだ…と。
俺の前で泣くのを我慢していたんだ。 今までずっと…。
そして夜になると絵里ママの胸で思いっきり泣いていたんだとその時初めて分かったよ。
よほど弟が可愛かったのだろう。
どんなにイタズラや悪さをしても一度も怒る事は無かったな…。
そして次の日も笑顔で一生懸命俺の世話をしてくれた。
そんなキラキラ輝く百合の目を見てると何かギュっとする思いが込み上げてきたのを覚えている。
まあでも、
いつの間にか俺の前でも泣く様になったけど…
いつ初めて俺の前で泣いたのかはもう、覚えていないな…。
彩 「それ本気でいってんの…?」
大粒 「うん… たのむよ… お姉ちゃん…」
彩 「……………」
彩 「よし! よく言ったね! これから一緒に道場行こっ!」
彩 「パパとママにはあたしからいっとくネ!」
大粒 「え! ありがと! お姉ちゃん!」
彩 「がんばって強くなって百合ちゃん守るのよ〜」
大粒 「うん! へへ!」



